
「近くにヤードができてから、騒音がひどくて窓が開けられない」「悪臭や粉じんで洗濯物が干せない」——こうした声は、全国各地で長年にわたって聞かれてきました。使用済みの金属やプラスチックを保管・再生するスクラップヤードは、資源循環の重要な担い手である一方、一部の不適切なヤードが周辺住民の生活環境を脅かしてきたのも事実です。
こうした状況を受け、政府は令和8年(2026年)4月10日、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律等の一部を改正する法律案」を閣議決定しました。法案は現在、第221回国会に提出されており、今国会での成立が目指されています。ここでは、改正法案の背景と主な内容を整理します。
なぜ今、ヤード規制が必要なのか
現行の廃棄物処理法は、「廃棄物」に該当する物品の保管を規制する一方、資源としての取引価値がある「有価物」は原則として規制対象外となっています。ヤードに搬入されたスクラップが有価物として扱われる場合、たとえ見た目が廃棄物と変わらなくても、現行法では取り締まることができません。
環境省が令和7年度に実施した実態調査によると、全国で4,625か所の事業場が確認されており、うち一部の不適正な操業により、騒音・悪臭・水質汚濁・火災などのトラブルが全国で累計275件発生しています。一部の自治体は独自条例でヤード規制に取り組んできましたが、全国一律のルールは存在しませんでした。そのため「条例のない地域に移転して事業を続ける」といった悪質な事例も報告されてきました。
改正法案の2本柱:許可制の導入と災害廃棄物対策
今回の改正法案は大きく2つの柱で構成されています。
第1の柱が、スクラップヤードへの許可制の導入です。使用済みの金属・プラスチック物品の保管または再生を行う事業について、都道府県知事の許可が必要となります。許可の有効期間は政令で定める期間(5年を下らない期間)とされ、更新が義務付けられます。また、保管・再生に関する基準の遵守が求められるほか、環境汚染のおそれがある物品の輸出については環境大臣の確認制度が新設されます。許可を受けずに営業した場合は5年以下の拘禁刑または1,000万円以下の罰金(法人は3億円以下の罰金)が科される見込みです(※法案の内容に基づくもので、最終的な内容は国会審議等を経て確定します)。
第2の柱は、災害廃棄物処理の推進です。能登半島地震などの教訓を踏まえ、市町村に対して災害廃棄物処理計画の策定を義務付け、地方公共団体への安定的な支援体制を構築するとされています。
「有価物か廃棄物か」という長年の課題に切り込む
廃棄物処理法は、制定から50年以上が経過した現行の枠組みでは「廃棄物ではないもの」を規制できない構造でした。今回の改正法案は、廃棄物処理法制定後初めて「廃棄物ではないもの」を規制対象に取り込むという点で、制度の根幹にかかわる大きな転換です。長年の「法の空白」に、ようやく正面から向き合う内容となっています。
収集運搬業者・排出事業者としておさえておくこと
現時点では法案段階であり、施行日や具体的な基準は今後の政省令で定められます。許可制については公布から2年6か月以内に施行される予定です。現在ヤードを利用している収集運搬業者や排出事業者にとっても、委託先の適正管理という観点から動向を注視しておくことが重要です。適法に運営する事業者にとっては、公正な競争環境が整備されることで業界全体の信頼性が高まるという側面もあります。
法改正の動向を早めに把握し、委託先の選定や契約内容の見直しに活かすことが、事業を守ることにつながります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。
内容は行政書士 吉田哲朗(行政書士吉田哲朗事務所 代表)が確認し、公開時点の法令・運用基準に基づき監修しています。
実際の申請要件や判断は、各行政庁の指導に従ってください。
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