今回は「放射性物質汚染対処特別措置法(以下、特措法)」について解説します。
この法律は、平成23年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故を契機に制定されたもので、放射性物質によって汚染された土壌や廃棄物を適正に処理・除染するための特別な枠組みを定めています。


制定の背景と目的

原発事故により、大気中に放出された放射性セシウムなどが、広範囲にわたって土壌や森林、生活環境を汚染しました。
この被害に対応するため、従来の「廃棄物処理法」だけでは不十分であると判断され、国が主導して除染と廃棄物処理を進めるための特別措置として本法が成立しました。

特措法の目的は、

  • 放射性物質により汚染された地域の生活環境の保全
  • 国民の健康被害の防止
  • 汚染廃棄物の安全かつ確実な処理
    です。

法律の対象とする地域・廃棄物

特措法では、環境大臣が指定する「汚染状況重点調査地域」が定められています。
この地域は、空間放射線量率などが一定基準を超える地域で、除染や廃棄物処理が必要とされる場所です。

また、対象となる廃棄物は、

  • 除染で発生した土壌や草木などの廃棄物
  • 事故由来の放射性物質で汚染された焼却灰・汚泥・汚染廃棄物
    などが含まれます。これらは、通常の産業廃棄物とは異なる取り扱いが求められます。

処理の責任と実施体制

特措法に基づく除染や廃棄物の処理は、国が直接実施する地域と、市町村が実施主体となる地域に分かれています。
国が行うのは主に、放射線量が高く立ち入りが制限されている「帰還困難区域等」での対応です。

一方、市町村が担当する地域では、生活圏の除染や仮置場での保管、焼却施設での減容化などが行われます。
これらの実施にあたっては、産業廃棄物処理業者が除染作業や運搬に関与することもありますが、放射性物質の取扱いに関する特別な安全管理体制が求められます。


保管・運搬・最終処分のルール

除染で発生した汚染廃棄物は、仮置場や中間貯蔵施設で一時的に保管されます。
その後、国が整備する「中間貯蔵施設(福島県大熊町・双葉町)」に搬入され、最終処分まで安全に管理されます。

運搬にあたっては、

  • 飛散・流出・漏えい防止措置の徹底
  • 運搬経路や保管場所の事前届出
  • 放射線管理区域への立入制限遵守
    などが厳しく求められます。
    これは、通常の産廃運搬とは異なり、放射線防護の観点からの管理が義務付けられている点が特徴です。

産業廃棄物業者が注意すべき点

産廃業者が特措法に関わる案件に携わる場合、廃棄物処理法上の許可だけでは不十分です。
放射性物質の取り扱いについて、環境省のマニュアルや自治体の運用指針に基づいた安全管理が必要です。

また、現場での作業員教育、線量測定、保護具の使用、廃棄物の識別管理など、高度な安全対策と記録管理が求められます。
これに違反すると、法令違反や行政処分の対象となることもあります。


まとめ

放射性物質汚染対処特別措置法は、単なる廃棄物処理法の延長ではなく、放射性物質という特殊な危険性を前提とした特別法です。
国・自治体・事業者がそれぞれの役割を果たすことで、環境の再生と地域の安全が守られています。
産業廃棄物業者にとっても、通常業務の延長線上に「放射線リスク管理」が求められることを理解しておくことが重要です。


※本記事は一般的な情報提供を目的としています。
内容は行政書士 吉田哲朗(行政書士吉田哲朗事務所 代表)が確認し、
公開時点の法令・運用基準に基づき監修しています。
実際の申請要件や判断は、各行政庁の指導に従ってください。

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