⑩適正処理のためにマニフェストを使う

マニフェスト制度は、産業廃棄物の収集・運搬や中間処理、最終処分など処理業者に委託する場合、排出事業者が処理業者に対してマニフェストを交付し、委託した内容どおりの処理が適正に行われたことを確認するための制度です。

マニフェストは、7枚つづりの伝票で、産業廃棄物の種類や数量、運搬や処理を請け負う処理業者の名称などを記載します。

収集・運搬や処理などを請け負った処理業者は、委託された処理が終わった時点でマニフェストの必要部分を排出事業者に渡すことで、適正に処理を終えたことを知らせます。

マニフェスト制度を利用することにより、不適正な処理による環境汚染や、社会問題となっている不法投棄を未然に防ぐことができます。

⑪マニフェスト制度が導入された背景

マニフェスト制度の導入前は、産業廃棄物の実際の流れを把握することは非常に困難でした。そこで、産業廃棄物の委託処理における排出事業者の責任を明確にし、不法投棄を未然に防ぐことを目的として、マニフェスト制度が導入されました。

これにより、産業廃棄物を処理業者に引き渡した後も契約どおりに処理されているかどうかを、マニフェストによってテェックすることが、排出事業者に義務付けられました。

⑫マニフェストに記入すること

(1)マニフェストの制度の目的には、産業廃棄物の実際の処理の流れを記録に残すことにあります。

マニフェストに記録する情報は、産業廃棄物を、

①誰が(委託者、収集運搬業者、中間処理業者、最終処分業者など)

②何を(産業廃棄物の種類、数量、荷姿など)

③どのように(産業廃棄物の処分方法、産業廃棄物の最終処分の場所など

④いつ(マニフェストの発行日、運搬終了日、処分終了日、最終処分終了日)、処理したのか

の4点です。

(2)マニフェストには、排出事業者が書き起こす「一次マニフェスト」と、中間処理業者が書き起こす「二次マニフェスト」があります。

⑬マニフェストの使い方1

産業廃棄物の引き渡しから収集運搬終了まで

(1)排出事業者が産業廃棄物を処理業者に引き渡すとき

排出事業者は、マニフェスト(A・B1・C1・C2・D・E票の7枚複写)に必要事項を記載し、マニフェストとともに、産業廃棄物を収集運搬業者に引き渡します。

収集運搬業者は、7枚にマニフェスト用紙すべてに、産業廃棄物とマニフェストを受領したという確認の意味で、運搬担当者の氏名(会社名も含む)を署名または押印し、A票を控えとして排出業者渡します。

A票を受け取った排出事業者は、それを保管しておきます。

(2)収集運搬が終了したとき

収集運搬業者は、マニフェスト(B1・B2・C1・C2・D・E票の6枚複写)の運搬終了年月日欄に運搬を終了した日付を記入し、マニフェストを産業廃棄物とともに中間処理業者に引き渡します。

中間処理業者は、産業廃棄物とマニフェストを受領したという確認の意味で、6枚のマニフェスト用紙すべての処分担当欄に、処分担当者の氏名(会社名を含む)を署名または押印し、B票とB2票の2枚を控えとして収集運搬業者に渡します。

運搬を終了した収集運搬業者は、B1票を5年間保存するとともに、運搬終了後10日以内に、B2票を排出事業者に送付して、運搬終了の報告をします。

排出事業者は、B2票の内容を確認し、記載内容に問題がなければ、受け取った日付を記入し、5年間保存します。もし、産業廃棄物を引き渡してから90日(特別管理産業廃棄物の場合は60日)以内にB2票が送付されてこない場合、排出事業者は処理の状況を確認し、生活環境の保全上必要な措置を講じたうえで、30日以内にその事実を都道府県知事に報告します。

収集運搬の終了時には、排出事業者の手元にはA票とB2票、収集運搬業者の手元にはB1票、中間処理業者のところには残りのC1・C2・D・E票のマニフェストがある状態となります。

⑭マニフェストの使い方2

中間処理から最終処分まで

(1)中間処理が終了するまで

中間処理業者は、マニフェスト(C1・C2・D・E票の4枚複写)の処分終了年月日欄に処分を終了した日付を記入し、C1票を5年間保存するとともに、処分終了後10日内に、C2票を収集運搬業者に、D票を排出事業者に送付して、処分終了の報告を行います。

C2票を受け取った収集運搬業者は、その記載内容に問題がなければ、受け取った日付を記入し、5年間保存します。

D票を受け取った排出事業者は、A票、B2票、D票を照らし合わせ、運搬と処分が終了したことを確認し、D票に受け取った日付を記入し、5年間保存します。

もし、産業廃棄物を引き渡してから90日(特別管理産業廃棄物の場合は60日)以内にD票が送付されてこない場合、排出事業者は処理の状況を確認し、生活環境の保全上必要な措置を講じたうえで、30日以内にその事実を都道府県知事に報告します。

(2)最終処分終了の確認まで

中間処理業者は、中間処理後の残さを処分するため、最終処分業者などに対して新たに7枚複写のマニフェスト(二次マニフェスト)を交付し、残さの処理を委託します。

最終処分が終了すると、最終処分業者は中間処理業者に、最終処分を終了した旨を記載した二次マニフェストのE票を送付します。

中間処理業者は、二次マニフェストのE票の送付を受けてから10日以内に、一次マニフェストのE票の最終処分を行った場所欄と最終処分終了年月日欄に、必要な事項を記入し、排出事業者へ送付します。

E票を受け取った排出事業者は、A票、B2票、D票、E票を照らし合わせ、最終処分が終了したことを確認し、E票に受け取った日付を記入し、5年間保存します。もし、産業廃棄物を引き渡してから180日以内にE票が送付されてこない場合、 排出事業者は処理の状況を確認し、生活環境の保全上必要な措置を講じたうえで、30日以内にその事実を都道府県知事に報告します。

最初は7枚だったマニフェストは、最終的には、排出業者に4枚(A、B2、D、E票)、収集運搬事業者に2枚(B1、C2票)、中間処理業者に1枚(C1票)と分かれて保存されることになります。

⑮やってはいけないマニフェストの運用

(1)数量の未記載

排出業者の事業所には、廃棄物の重量などを正確に計測する機器がないため、マニフェストの「(廃棄物の)数量」欄を空白のまま交付し、後で中間処理業者が送ってくれる重量計測結果を転記、という方法をとっている企業が多くありますが、廃棄物処理法では、このようなマニフェストの交付は違法となります。

「数量」は排出事業者の責任において記載する必要があります。排出事業者がマニフェストを交付する段階では、「数量」欄には、必ずしも「廃棄物の正確な重量」を記載する必要はなく、委託する産業廃棄物の量などをある程度特定できる数値、例えば、「ドラム缶3本分」とか「8立法コンテナ1台分」といった、「数」や「およその量」を把握できる数値で十分です。

(2)複数の産業廃棄物の処理を1通のマニフェストのみで委託

マニフェストは、産業廃棄物の種類ごとに1通ずつ交付するのが原則です。産業廃棄物はそれぞれの種類ごとに、適切な中間処理や最終処分の方法が異なるためです。

使用済みOA機器のように、それが発生した段階から複数の産業廃棄物が混合しているものについては、複数の産業廃棄物が一体となった「混合物」として、1通のマニフェストで運用することができます。

混合物として、複数の産業廃棄物を1通のマニフェストで運用するためには、①「発生段階から複数の産業廃棄物が混合している」、②「それぞれの産業廃棄物の種類ごとに容易に分離できない」という、2つの条件を両方とも満たしておく必要があります。それ以外は、産業廃棄物の種類ごとにマニフェストを交付する必要があります。

⑯マニフェストを紛失したときの対応

マニフェストは廃棄物処理に携わるそれぞれの当事者が保存すべき伝票です。

排出事業者は、A票・B2票・D票・E票の4枚、収集運搬業者はB1票・C2票の2枚、中間処理業者はC1票を、それぞれ5年間保存しなければなりません。マニフェストの保存を怠った場合は、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」の刑事罰が科されます。

もし、紛失してしまったときの対応として、まず「産業廃棄物の処理記録を残す」ために、委託先の処理業者に事情を説明し、処理業者が保存している伝票のコピーを提供してもらい、それを紛失したマニフェストの代わりに保存します。そして、二度と紛失を起こさないため処理業者から提供された伝票のコピーに追記しておきます。

⑰電子マニフェスト

電子マニフェストとは、マニフェスト情報をすべて電子化し、オンライン上でマニフェストを運用できるようにしたシステムです。

電子マニフェストの運営は、国が指定する情報処理センターが行っています。現在では、日本産業廃棄物処理振興センターが唯一の情報処理センターとして指定されています。

電子マニフェストの場合、手続きはすべてオンライン上で完結しますので、紙マニフェストのように5年間の保存義務がありません。

また、産業廃棄物の処理に関する情報は、排出事業者の代わりに情報処理センターがすべてを管理してくれます。毎年、都道府県知事などに報告するマニフェストの交付実績についても、電子マニフェストを利用した分は情報処理センターがすべてを管理してくれます。

⑱紙マニフェストと電子マニフェストのメリットとデメリット

紙マニフェストには、すぐに運用できる、運用コストが安いメリットがあります。

電子マニフェストには、書類の保存義務がない、マニフェストの交付実績を報告しなくてもいい、紙マニフェストより早く、産業廃棄物の処理状況を把握できるメリットがあります。

現在のところ、すべての産業廃棄物処理業者が電子マニフェストに対応しているわけではありませんので、紙マニフェストも使用せざる得ません。

また、産業廃棄物の発生がごく少ない場合、電子マニフェストを導入しても、ランニングコストが高くつくため導入のメリットがあまりありません。

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吉田哲朗
吉田哲朗